股関節の痛み
股関節の痛み
股関節は、私たちの日常生活の中で欠かせない重要な関節の一つです。歩行や走行、座ったり立ったりする際にはこの関節が大きく関与しています。しかし、多くの人が何らかの原因で股関節の痛みを経験することがあります。
変形性股関節症は、最も一般的な股関節の病気の一つです。女性に多く発症し、その多くは元々の股関節の形成が不十分であること(発育成股関節形成不全症)が原因です。他の原因としては大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)などがあります。
病態は股関節の軟骨が徐々に摩耗していくことで関節が変形してしまうことです。軟骨は関節を滑らかに動かす役割を持っているので、その摩耗や変形により、痛みや関節の動きの制限などの症状が出現します。
症状の聴取と身体所見から変形性股関節症を疑い、レントゲンを撮影します。レントゲンで股関節の軟骨の摩耗度や関節の変形の程度を判定し、病期を決め治療に役立てます。
病状の進行具合によって、病期が前期股関節症、初期股関節症、進行期股関節症、末期股関節症に分かれ、それぞれの病期に応じた治療を行います。
FAI(Femoroacetabular Impingement)は、股関節の大腿骨部と骨盤の臼蓋部が特有の形状をとっていることで、摩擦や衝突を生じることによって発症します。この摩擦や衝突が原因で、関節軟骨や関節唇に損傷が生じ、股関節の痛みが生じます。特に活動的な方やスポーツ選手に多く見られる疾患です。
症状の聴取と身体所見からFAIを疑い、まずレントゲンを撮影します。単純X線では変形性股関節症の評価と、FAI特有の大腿骨頸部の変形(Cam type)や臼蓋部の変形(Pincer type)の精査を行います。
また必要に応じてCT検査やMRI検査を行うことがあります。
保存治療として、薬物療法(消炎鎮痛薬の処方)や関節内注射、リハビリテーションがあります。特にリハビリテーションは、股関節及び腰椎から骨盤帯の機能低下がFAIの痛みの要因となっていることがあり重要です。
上記保存治療にも反応せず、痛みや可動域の制限で日常生活の支障が続く場合は股関節鏡下の手術を行う場合があります。
小児期の股関節の痛みとして最も発生頻度が高い病気です。
3歳から10歳頃に発生(6-7歳に好発)し、通常経過観察のみで治癒する病気です。
通常、片側だけの股関節の痛みで発症し、疼痛が強い場合は歩行困難となることもあります。
場合によっては発熱を伴うこともあります。
症状の経過及び、レントゲン検査、超音波検査から診断します。
発熱を有する場合は化膿性股関節炎との鑑別が重要になります。また痛みが継続する場合は後述するペルテス病との鑑別も重要となります。
単純性股関節炎である場合は一般に経過観察のみで治癒します。痛みが強い場合はアセトアミノフェン等の鎮痛薬を処方し、鎮痛を図ります。
ペルテス病は発育期に大腿骨骨端核に血流障害(阻血性壊死)が起きる病気で、6-7歳頃に生じ、男児の方が多く発生します。
股関節痛や歩容の異常で気づかれることが多いですが、太ももから膝の痛みで発症することもあります。
本症を疑って、レントゲン検査を撮影することで診断します。
初回は単純性股関節炎との鑑別が困難なことも多く、レントゲン検査での計時的な経過観察やMRI検査が診断に役立ちます。
各種装具療法による保存治療と手術治療の選択肢があり、年齢や病期によって治療法を選択します。
大腿骨頭すべり症は思春期の成長が盛んな時期に、大腿骨骨端核が後下方にすべってずれてしまう病気です。思春期の男児に発生することが多く、両側性であること、肥満児に多く発生することがその特徴です。
股関節の痛みや歩容の異常で発症することが多いですが、膝の痛みを訴えることもあり注意が必要です。
症状の経過とレントゲン検査等から判断します。
レントゲン検査を行い、病型を判断し治療方針を決定します。手術治療ではピンニングや骨切り術が行われます。
鼡径部痛症候群はサッカー選手やキック動作を多用するスポーツ選手に生じる、股関節周囲や下腹部に生じる痛みの総称です。
スポーツ時、主にランニングやキック動作時に股関節や下腹部周囲に痛みが生じます。
痛みの原因となる器質的な疾患がないか、レントゲン検査、超音波検査、MRI検査などで精査を行います。
鼡径部痛症候群では体幹-股関節-下肢の協調性や機能が低下していることが多く、リハビリテーションを行い、全身の協調性や安定性を高めていきます。